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【地酒解体新書第19回】熱と空気と置いたままのお酒の、ビミョーな関係

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地酒ファン必見のおもしろ雑学コンテンツ。 知っているとちょっと使える地酒よもやま話&雑学集。 地酒について、知っていそうで知らなかったこと・知らなかったけど人に聞けなかったこと・知ってたけど「ほんとに!?」と疑っていたものなどまわりの人にちょっと話したくなる地酒にまつわる雑学をを地酒博士が徹底レクチャー!これを読んで、地酒の雑学王になろう!

読み物
酒類

いろいろな品質と熱処理のカタチ


前回に続き、読者の方からのご質問「古くなった酒は飲めるのか?」へのお答え第2弾!
第3回で「容器で維持する地酒の鮮度・風味」として、なぜ一升壜やビール壜は茶色が多いのか、押入れの天袋はなぜお酒に良くないのか、などについて触れました(バックナンバー第3回をご参照下さい)。
お酒の品質劣化の要素は光と空気と温度であること。
劣化といっても腐って飲めなくなるということではなく、「風味が落ちる」という意味であること。
光については茶色や黒の壜は遮光性が強く、曇りガラスはかえって光を通すこと 。
これらについても復習していただいた上で、今回は「空気」について考えてみることにしましょう。

お酒の壜詰めとはいわゆるホットパックで、60℃~70℃くらいに熱して充填します。
最近では生酒が多く出回り、「生詰め」のものもありますが、「生貯蔵酒」と呼ばれるものは貯蔵が生なだけで壜詰めの時には加熱殺菌します。
貯蔵も壜詰め時も加熱しないものを「本生」とか「生々」、貯蔵は生だけど壜詰め時には加熱殺菌すれば「生貯」。逆に、タンク貯蔵する時だけ熱して壜詰め時に生ならば「生詰め」。
大雑把には、このように考えて良いと思います。
いずれにせよ本生でなければ、どこかで加熱殺菌するわけですが、壜詰めの時に加熱殺菌(ホットパック)すれば、充填された時のお酒は熱で膨張しています。
ですから、入味線(液面の高さ)は通常店頭で販売されている状態より高い位置 にあります。
店頭で販売されている時でも、厳密に言えばその時の気温によって多少の違いはありますし、壜の成形によっても誤差は生じますが、一般的には1.8L壜の場合は壜口の天面から104mm下がったところが入味線(液面の高さ)になっています。
これは酒税法というオドロオドロシキ法律で規程されており、気温15℃の時における数値とし、入味線は壜の外底部から291mm、容器の王冠部から液面までの空間の長さ(空積深)は104mm、てな規定になってます。
また、気温15℃で天面から104mmまで液体が入ってたら正しく1.8L入ってる容器ですよという証明として、1.8L壜の壜底より少し上のあたりへ1800mlの表記やガラス壜の製造工場記号、金型番号とともに “正”の字を丸で囲ったマークが掘り込まれています。

開封したら、“真空”から“酸化”に移る。


いずれにせよ、壜詰め時に加熱殺菌して膨張しているお酒を1800ml充填すれば、液面(入味線)は“天下がり”となり、104mmではなく4~8cm高いところにあります。その後お酒が常温になった時に、膨張していたお酒が収縮して通常の入味線の高さになるわけですね。

開栓前のお酒の壜は全くの真空とは言いませんが、液面から壜口までの空寸部分(ヘッドスペース)はバキュームを引いている状態なのです。

つまり、お酒を劣化させる要素の一つである空気が少なくなっていて、開栓すれば新しい空気が入りますから、劣化の速度は当然早まります。

さらに、元々の質問の「古くなった酒は飲めるのか?」に対する答えは、栓を開ける前なのか開栓後なのかによっても異なります。

お酒を劣化させる要素は(A)光(B)温度の変化(C)空気ですから、冷暗所で開栓前ならば比較的長期間保存された後でも劣化は少なく、吟醸酒などは美味しくなる場合も多く、更に言えば前回お話した「長期熟成酒」につながります。

一般的には、開栓してしまえば1~2週間ですかねぇ。

ただし、これも置いてある場所や気温、酒質で違いますし、人によって風味・感じ方が微妙に変わりますので一概には解説できません。

ご家庭の笑える劣化小ばなし


最後に、いつも講演などでお話しするフレーズをひとつ!
「梅錦」ってばギフトが多ござんして、これはこれで有難い話なんでございますが、
「あなたぁ、いつもの梅錦、届いたわよ」なんて奥さんに言われて、
「そいつぁいい! もったいねぇから、しまっときな」
ってなもんで、押入れの天袋に2年なんてことがございます。
だいたいが押入れの天袋なんてぇーのは、季節ごとの冷暖房を毎日モロに受ける温度差の一番激しい場所です。お酒にとっちゃ虐待テストを受けてるよーなもんですから、2年も経ちゃぁ風味なんざ落ちちゃいます。
それから思い出したよーに引っ張り出して、飲んでから
「んー?? 梅錦もたいしたことないな」
って、こりゃ酒屋にとっては、とってもツライことなんですが、それよりもっとヒドイ方になりますと
「あーた、また梅錦、届いたわよ」
なんて、奥さんも2本目になりますとチョット目がゆるみまして、ダンナは飲みたいばっかりですから
「チョットだけ」
なんて言い訳しながら味見しますと
「んー! 梅錦もイイもんだねぇ」
なんて悦に入ってますと、奥さんもすかさず
「わたしも味見」
なんて手ぇー出すもんですから、ダンナにしちゃー
「こりゃ、いけねぇ」
ってなもんで
「もったいないから、あたぁーしまっとけ」
なんて、奥さんでは踏み台を使わないと手が届かない水屋(食器棚)のテッペンにしまっちゃいます。
味見したってぇことは栓は開いているわけで、その瞬間から劣化速度は早まりますから、ひと月も経ちますと風味は落ちちゃいます。
そして、もう一歩進んだおウチでは、ある日、思い出したよーにダンナが
「おい、あの梅錦どーした?」
なんて聞いた時には
「あら!? 栓を開けたのに、あーたが飲まないから煮酒に使っちゃったわよ」
なんて言われて、
「ここしばらく、煮酒を使うよーな手料理なんぞ、出たこたぁねーぞ?」
なんて思って、でも、そんなこと奥さんに言えるでもなく、
「この野郎……てめぇで飲んじまったな…ブツブツ」
とつぶやき、奥さんの後姿を睨みつけても、時すでに遅く。
ネ! だからダンナ、栓を開けた日本酒は早目に飲みなって!
オアトがよろしいようで。

地酒解体新書について

本連載は、国分グループ本社株式会社と全国の有力地酒蔵元との協力により運営して運営する「地酒蔵元会」ホームページ内に掲載されている記事を転載しております。解体新書の他にも地酒に関する様々な情報が記載されておりますので、ぜひアクセスしてみてくださいね。
※地酒解体新書は2008年に公開された記事となります。現在とは異なる表記がある場合もございますのでご了承ください。

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